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ROA・ROE・ROIC

1. 収益性指標とは? – 企業の実力を測るものさし

収益性指標とは、企業がどれだけ効率的に利益を生み出しているかを示す指標です。企業の収益性は、投資家の投資判断、金融機関の融資判断、経営者の経営戦略策定など、様々な場面で重要な判断材料となります。

主な収益性指標としては、以下のものがあります。

  • ROA(総資産利益率)
  • ROE(自己資本利益率)
  • ROIC(投下資本利益率)
  • 売上高総利益率(粗利率)
  • 売上高営業利益率
  • 売上高経常利益率
  • 売上高当期純利益率

本記事では、特に重要なROA、ROE、ROICの3つの指標に焦点を当てて解説します。

2. ROA・ROE・ROICの定義と計算式 – それぞれの指標が示すもの

(1) ROA(総資産利益率:Return on Assets)

企業が総資産(自己資本と他人資本の合計)をどれだけ効率的に活用して利益を生み出しているかを示す指標。

 

  • 当期純利益: 税引後の最終的な利益
  • 総資産: 貸借対照表(バランスシート)の左側の合計額(資産の部)

 

特徴

  • 企業の規模に関係なく比較しやすい。
  • 経営者の資産運用能力を測る指標になる

2) ROE(自己資本利益率:Return on Equity)

企業が自己資本(株主資本)をどれだけ効率的に活用して利益を生み出しているかを示す指標。

自己資本: 貸借対照表の純資産の部から、新株予約権と非支配株主持分を除いた金額

  • ROEが高いほど、株主は少ない投資で多くの利益を得られる、つまり投資効率が良いことを示す。
  • 株主にとっての重要な投資判断指標。
  • 一般的に、ROEは10%以上であれば良好、15%以上であれば優良とされることが多い。
  • ただし、自己資本比率が低い企業(借入金が多い企業)は、ROEが高くなる傾向があるため、注意が必要(レバレッジ効果)。

特徴

  • 株主視点での収益性を評価する指標。
  • 自己資本比率が低い企業はROEが高くなる傾向があるため注意が必要。(レバレッジ効果)

 

(3) ROIC(投下資本利益率:Return on Invested Capital)

企業が事業活動に投下した資本(投下資本 = 自己資本 + 有利子負債)から、どれだけの利益を生み出しているかを示す指標。

 

税引後営業利益: 営業利益 × (1 – 実効税率)営業利益から税金を差し引いた、事業活動から得られた利益

投下資本: 自己資本 + 有利子負債

有利子負債:借入金、社債など、利息を支払う負債

 

  • ROICが高いほど、企業は事業活動に投下した資本を効率的に活用して利益を生み出していることを示す。
  • ROICは、企業の真の収益力を示す指標として、近年注目されている。
  • ROICがWACC(加重平均資本コスト:企業の資金調達コスト)を上回っていれば、企業価値を創造していると判断できる。

特徴
事業の本質的な収益力を評価できる
資金調達コストも考慮するため、借入金を活用した経営戦略の分析に適している

 

ROA・ROE・ROICの比較と活用方法

  • ROA: 企業の総合的な収益性、資産効率を評価するのに適している。業種や企業規模に関わらず比較しやすい。
  • ROE: 株主視点での収益性を評価するのに適している。ただし、自己資本比率によって大きく変動するため、ROAやROICと合わせて分析する必要がある。
  • ROIC: 企業の真の収益力を評価するのに適している。WACCと比較することで、企業が価値を創造しているかどうかを判断できる。

 

3つの指標の関係性

これらの指標は、互いに関連しています。例えば、ROEは以下の式で分解できます(デュポン公式)。

ROE = ROA × 財務レバレッジ(総資産 ÷ 自己資本)

この式から、ROEはROAと財務レバレッジ(借入金の利用度合い)によって決まることがわかります。つまり、借入金を増やすことでROEを高めることができますが(レバレッジ効果)、同時に財務リスクも高まります。

ROA、ROE、ROICを組み合わせた分析例

  • ROAとROEを比較: ROAよりもROEが大幅に高い場合、借入金を活用して事業を行っていることがわかる。ただし、過度な借入金は財務リスクを高めるため、注意が必要。
  • ROEとROICを比較: ROEが高くても、ROICが低い場合、借入金に依存した経営を行っている可能性がある。ROICは、事業活動そのものの収益性を示すため、ROICの向上を目指すことが重要。
  • ROICとWACCを比較: ROICがWACCを上回っていれば、企業は投下した資本に対して、それ以上のリターンを生み出している、つまり企業価値を創造していると判断できる。

 

ROA・ROE・ROICの具体的な活用事例

  • 成長企業への投資: ROEが高く、かつROICも高い企業は、成長性が高く、効率的に利益を生み出していると判断できる。
  • 割安株の発掘: ROA、ROE、ROICが業界平均よりも高いにも関わらず、株価が割安に放置されている企業を発見できる可能性がある。
  • 自社の強み・弱みの把握: ROA、ROE、ROICを過去の推移や競合他社と比較することで、自社の強み・弱みを把握できる。
  • 事業ポートフォリオの見直し: ROICが低い事業は、撤退や売却を検討する。
  • 設備投資の意思決定: 設備投資によってROICが向上するかどうかをシミュレーションする。
  • 企業価値評価:ROICはWACCとともに、DCF法(割引キャッシュフロー法)を用いた企業価値評価に活用できる。

ROA・ROE・ROICの注意点

  • 業種特性: 業種によって、ROA、ROE、ROICの平均値は大きく異なる。同業他社との比較や、過去の自社の数値との比較が重要。
  • 会計基準: 会計基準の違い(日本基準、米国基準、IFRSなど)によって、ROA、ROE、ROICの値が異なる場合がある。
  • 一時的な要因: 臨時的な損益(特別利益、特別損失)によって、ROA、ROE、ROICの値が大きく変動する場合がある。
  • のれん: M&Aによって生じた「のれん」は、ROAやROICを低下させる要因となる。

 

まとめ – 収益性指標を使いこなし、企業価値向上へ

ROA、ROE、ROICは、企業の収益性や経営効率を多角的に分析するための重要な指標です。これらの指標を単独で見るのではなく、相互の関係性や他の財務指標(売上高成長率、自己資本比率、有利子負債比率など)と組み合わせて分析することで、より深く企業の実態を理解し、投資判断や経営戦略策定に役立てることができます。

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